革命家・外山恒一連続公演
マイ・マジェスティ
公演レポートVol.9【最後の指令をこうして俺は待ってる】
(2001.8.27 第5回刑事公判)
* * *
傍聴についてのお知らせ
事件番号 平成12年(わ)第1679号
被告人 外山恒一
事件名 傷害
期日 8月27日午後4時10分
法廷 304号法廷
1.上記事件の第5回公判は、傍聴券がないと傍聴できません。
2.傍聴券は、抽選により交付します。
^傍聴を希望される方は、本日午後4時00分から同4時05分までの間に本館3階304号法廷前においでください。整理券を交付します。
_抽選は、本日午後4時05分から行い、当選者に傍聴券を交付します。
`一般傍聴券は、24枚です
3.そのほか、傍聴券の交付、法廷への入廷等については、裁判所職員の指示に従ってください。
福岡地方裁判所
* * *
大勝利じゃん。
「裁判所が整理券発行せざるを得ないほどの観客大量動員をめざす」という目標のひとつが、判決の日になって、やっと叶った。
しかし。
今日はあんまり来ないんじゃないかと思うんだけどなー。
ぼくの事件を担当する刑事第2部へ行き、担当の中原書記官に訊いてみる。
「なんで今日になっていきなり傍聴券配布なんですか?」
「いやー」
中原氏は頭をポリポリかきながら答える。「迷ったんですがねえ……。今日は判決の日だし、注目されてるのかなと思いまして……」
「たぶん今日はそんなに集まんないと思いますよ」
ぼくは正直に云った。「まあ、Aさん側の大量動員があるなら別ですが」
「そうですか」
「もし、24人以上来なくて、席がまだ空いてる状態だったら、4時5分以降に遅れて来た人も、傍聴できますか?」
「それはできます」
ならば安心だ。
開廷まで、裁判所でダラダラ過ごす。
同じ階で、民事の損害賠償請求裁判をやっている。労災で、若い女性社員がケガをしたらしい。その女性が原告で、相手側つまり被告は会社。今日はどうやら証人尋問らしく、その会社の事務員らしきオバサンが、原告側女性弁護士に、長々と尋問されている。
日本人ってのは、論理的に話すってことがほんとにできないんだなあ、と、その証人のオバサンの受け答えを見ていて思った。聞いてるこっちがイライラしてくる。20分ほどで耐えきれなくなって退廷。
同じ階では他に何の裁判もやっていないので、違う階に行ってみる。
5階の高裁で、窃盗事件の裁判をやっていた。
入って驚く。
広い!
たぶん100席ぐらいはありそうな傍聴席。
傍聴はたったの4、5人だったが、今日の裁判で勝っても(無罪)負けても(死刑)控訴しないからここに来ることはないが、中途半端な判決(前記2つおよび執行猶予つき死刑判決以外)なら控訴だからここに来ることになる。そうなるとここを満杯にしなきゃいけないんだなあ。できるかなあ。
入った時には、坊主頭のオジサンが、証人台に立って何か云っている。
被告人席には、制服警官二人に両隣を固められたオバサンらしき人が座っているから、このオジサンは被告人ではなく証人なんだろう。後で、被告人の兄だと分かる。
しばらくして、被告人のオバサンが証言台に立つ。
向かって右側に座っていた弁護士が立ち上がる。かなりのジイサンだ。
弁護士が、手紙の束を掲げて、これはあなたが逮捕されて以降、さきほどのお兄さんや、傍聴席にいらっしゃる内縁の夫に宛てて書いたものですね、などと訊く。
オバサンは、嗚咽しながら、はい、と答える。傍聴席の愛人もハンカチで涙を拭いている。オバサンは、泣きっぱなしなので、なかなか証言が進行しない。
うーむ。
やっぱ、裁判ってのはこうでなくっちゃな、と見ていてぼくは思わないが、ぼくの裁判の裁判官3人や、検事、書記官、速記官、司法修習生、そして無能のS弁護士ならば思うんだろう。まあ、ぼくも、異常な裁判をやってる身だから、こういうアリガチな浪花節的光景を見せられると、逆に新鮮ではある。
そうこうしているうちに、ぼくの裁判の開廷時間がせまってきた。
3階へ戻り、喫煙所でタバコを吸いながら、傍聴人の到着を待っている。最初に来たのはだめ連福岡・代表の矢野。
傍聴整理券が配られる4時が近づくと、304号法廷の前にはたくさんの人だかりができていた。が、その人たちはみんな「裁判所」の腕章をつけた職員である。4時5分、整理券が配られ始めたが、結局今日の傍聴人は11人。職員のみなさん、ご苦労様。
(傍聴整理券)
しかし傍聴人の中に、Aの弁護士・H の姿がない。そういえば同じ時刻に、Hの同志・B の担当する離婚調停をやるっていう貼り紙をさっき別の階で見つけたが、そっちに行ってんのかな? 見知らぬ女性が一人いたが、どうもそいつがスパイくさい。
4時10分、開廷。
「被告人は証言台の前に立ちなさい」
裁判長に云われたとおりにする。
名前を訊かれ、被告人本人であることを確認された。
「それでは、被告人は証言台の椅子に座りなさい」
はいはい、おっしゃるとおりに。
「これから、判決の云い渡しをおこないます。主文は後述し、まず判決理由から読み上げます」
この段階で、今は内勤に回されたが、最近まで現場で記者をやり、裁判もたびたび傍聴する機会があったという某新聞社のY青年はピンときたという。
普通、主文つまり「被告人を懲役何年に処す」みたいな結論が読み上げられ、次に判決理由を読み上げるのだというのである。判決理由から読み始めるなんて、死刑判決以外では初めて見ましたよ、と後でY青年は云った。
しかし、読み上げられる判決内容を聞いていて、ぼく自身も、次第に判決の結論部の想像がついてきた。
これは相当重いぞ、と。
だって、ぼくの主張はともかく、無能のS弁護士の主張まで(無能だったからか)すべて退けられて、結果、前回の結審の日に、山崎検事が読み上げたのと、ほぼそっくりそのままの文章だからである。山崎検事は、懲役1年、もちろん執行猶予なんかナシの判決を求めた。ほとんどおんなじ主張を、裁判長がやってるんだから、ほんとに懲役1年かもしれない。
10分ほどかけて、判決理由を読み上げ、ついに後回しにされてた主文。
「被告人を、懲役10ケ月に処す」
そんだけ。執行猶予はついていない。
控訴する場合は、明日から2週間以内に、控訴状を提出するように、と裁判長が云って、閉廷した。
「すげー」
ぼくは傍聴席を振り返って、おもわず呟いた。
廊下に出て、
「これから重大発表をおこないますので、みなさん、玄関前に移動してください」
と呼びかける。
無能で失敬なS弁護士は、いつのまにかいなくなっていて、今日は結局一言も口をきかなかったことになる。
玄関前に、7、8人の傍聴人が集まった。
そこで、用意しておいた「革命無罪」「傷害有罪」の2つの紙を持って飛び出してくるぼくの写真を撮影した。
さて、声明の読み上げである。
「自己批判書。私は、革命家として、本件刑事裁判を、誠実かつ革命的に闘ってきました。少なくとも、主観的にはそのつもりでおりました。私に対する判決は、勝利つまり無罪か、敗北つまり死刑、この2つ以外にはあり得ないと確信していました。しかし、実際に云い渡された判決は、懲役10ケ月というものでした。革命的な法廷闘争によって敵権力を震撼せしめ、重刑攻撃によってこれに対処せざるを得ないほどの危機的状況に敵権力を追い込むことを成し得ず、このような屈辱的な結果をもたらしたことについて、全世界人民に対し、痛烈にグローバルに自己批判するものであります。最高裁判決確定までに、革命家としてのさらなる研鑽研磨を重ね、勝利つまり無罪判決を奪取し、雪辱を果たす決意を改めて表明するものです。次は高裁です。共に勝利を目指し前進しましょう。2001年8月27日、外山恒一!」
傍聴人たちから、申し訳程度の拍手。
そうだよなあ。
これじゃ盛り上がらないよなあ。
ぼく自身、最初は実刑覚悟の決意で公判に臨んでいた。しかし、公判が進むうち、いろんな人、新聞記者や弁護士など、法律や裁判についてフツーの人より多少詳しい立場の人たちからも、一様に「執行猶予つき有罪判決でしょう」と云われるので、ぼくもだんだん、つまんないんだけど、そうなのか、と内心思い始めていたのだ。
で、「懲役10ケ月、執行猶予2年」ぐらいの、みんなが妥当な線だという判決を想定して、上記「自己批判書」を前夜、執筆したのである。
しかしなあ……。
中途半端に重いんだよ。
なんかみんな、たぶんぼくを含めて複雑な心境で、なんかヘーンな雰囲気で、いまひとつ盛り上がりに欠ける。
この日は、夜遅くまで傍聴人2名と飲んだ。
そこで今後の方針について、いろんな案が出た。
9月10日までに控訴状を出さなければ、ぼくは刑務所送りである。
みなさん、どの案が一番いいと思いますか?
1.下獄してハクをつける。
1−2.下獄して獄中転向し、重信房子はじめ諸センパイ方にも転向を呼びかける。
2.これまでどおり、法廷侮辱を最高裁までえんえん続ける。
3.これまでとはうってかわって、没論理的に法廷で泣きわめく。
4.地下に潜る、つまり逃亡。
5.どっかもっとマシな国へ亡命。
6.沖縄へわたり、独立運動に献身して英雄となり、新生琉球政府の閣僚になる。
7.裁判所前で抗議の焼身自殺。
7−2.裁判所前で抗議の焼身自殺未遂。
8.自宅木造アパートの一室に籠城して機動隊と戦う。
9.残ったあの人と婚約して皇族になる。
10. まじめにやる。